*想像で物を書いてますくれぐれも真に受けないでください
*バンドマンのモデルはいないこともないが、こんなひどい奴かどうかは知らない
*シリーズもののようです。
未読の方は
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最後に笑うのは、誰?



年末、ライブハウス主催のカウントダウンライブやら年忘れライブやらの複数のブッキングを短時間でこなして、後はいつもの事務所主催の忘年会。今年はあいつも呼んであって、大勢の中とはいえ新年を一緒に迎えられることがうれしくて。丁度いー感じに酔いが回り始めた頃に到着したあいつを迎えに行ったところまでは本当に良い年の瀬だったんだ。

「ちょ、ちょっとあの人!!!」

部屋に連れてきた途端にあいつが喚きだしたことを除けば、さ。

「んあ?あんだよ」
「あの、あの人って、あのバンドのベースの、」
「ああ、そだよ。なして?」
「やばい、どうしよ、うあああああ」
「どうしたよオマエ…」
「あの人はあたしが人生で初めて好きになったバンドマンなのよ!!!…どうしようあんたにありったけの感謝を送りたいいっ」

はあ?
お前、俺と初めて会ったときと大違いじゃねえか。
何頬なんて染めてやがる、ふざけんじゃねえ。

「すいません、あの、ずっとファンだったんです!!握手してもらっていいですか?」

いつの間にか横からいなくなってる上、来て早速それかよ!他のどんな打ち上げに呼んでもあんな反応見たことなかったから、よっぽどあの人に憧れてんだろうな。確かにすげえベーシストだし人間的にも尊敬してるけど、なんか、なんだか。
大っ変面白くない。ムカツク。
盛り上がりを見せる宴の中他に逃げるものも無くて、左手に持ったテキーラグラスをぐいぐいとあおった。

***

「あ〜あこれは完全に寝てるねえ」

楽しかった宴も終り、初日の出もすっかり昇ってしまって。じゃあそろそろ解散、帰ろうか、なんて時に生じたでっかい問題。わがまま馬鹿野郎なボーカリスト様、完全に寝てらっしゃるじゃないですか。ただでさえでっかいのが大の字になるように転がってるお陰で、非常に邪魔。

「あれだけテキーラ飲めばね…こいつ酒強くねーし」

おい、起きろよ、あいつの無二の親友が頬をぺしぺし叩いてみるけどうーとかあーとか言いながら寝返りを打つだけ。そんな様子を見ていた周りが思い思いのことを話しだす。

「あれだよね、あそこから機嫌悪くなった、握手のくだり。」
「へ?」
「迎えに行く前ははた目から見てもウキウキだったのにねー。面白くなかったんでしょうね、この子は。」
「聞いた話によると初対面でも大分邪険にしたんでしょ?」
「う…。え、と、」
「その割に今日は同じ初対面のミュージシャンに握手してください!サインしてください!だもんねえ」
「…いや、まあ、」
「俺でもきっと切なくなっちゃうなー」
「私が悪いですすいませんごめんなさい」
『決まり。送っていってあげてね☆』

***

なんだかちょっと嵌められたような気もするけどしょうがないと乗り込んだタクシーの中。
でっかいボーカリスト様の頭がさっきから肩口に乗っかってて本当に重い。逆方向に払いのけようにも身体全体でよりかかってきてるからそれも出来ない…。
「こんなでかいのあたし一人じゃ無理です」と泣きついて着いてきてもらった彼が、でっかいのの向こう側でほんの少し苦笑めいた笑みを浮かべながら、言った。

「解ってると思うけどさ、こいつ、君のことホントに好きなんだよ」

「うん…。」

「応えてやってとは言えないけど、もう少し大事にしてやっては欲しいかな」

本当はずっと解ってて、でも解りたくなくて蓋をしてたこと。季節が一巡りする間、大抵は冗談に混ぜて、時折は真剣な表情で何度も言われた言葉が嘘だとはついぞ思えなくなっていた。まだ何の関係もないうちに聞いた数々の噂もすっかりなリを潜めていて、それがそのままあいつの本気を表してるようで。だけど踏み出すのが怖くて、ずっと見て見ぬふりをしてたんだ。

だけどね、年の初めくらいはちょっと冒険してみてもいいかなって思うんですよ。

「…新年だからね、新しいことでも始めて見ようかな、と、思ってます、よ?」

それだけでなんとなく伝わったらしくて、でっかいの越しに頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。止めてよーなんて言いながら、こんな風に頭撫でられたのはすごく久しぶりで、少しだけ涙が出た。


***


「…んー」

「起きた?」

重たく熱を持った瞼を無理やり開けば、見慣れた天井。
声のした方に顔を傾けると、お気に入りの黒いソファの上で寛ぐあいつ。

「…なんでおまえここにいるの…俺、忘年会で飲んでて…」
「テキーラショットでつぶれたんだよ。送ってきてあげたの。感謝しなさい。」
「あー…」

事の次第を少しずつ思いだしてきた。
返事をするのもなんだか億劫で、開いたばかりの瞼をもう一度閉じる。
五感の一をあえて塞げば、自然と鋭敏になる他の感覚。
ぺたぺたぺた、フローリングに響く微かな足音を耳が拾う。

「はい、お水」
「…サンキュー」

冷たく冷えた水が渇いた喉に沁みて心地よい。
綺麗にカットされたガラスが、照明の光を乱反射してキラキラと光る。

「あのさ?」
「んあ?」

傍らに立ったままのあいつが、少し困ったような顔で言う。
だらしなく座ったままだった身体を起こして促せば、らしくなく歯切れの悪い返事が。

「ん、前にさあ、あんたが言ってくれたこと…」
「前に言ったこと?」
「……好きだって。まだ、変わりないの?」
「ああ、うん」

憎たらしいほど変化のない気持。むしろ日を追うごとに強くなっているような気さえする。

そっか、と小さく嘆息のあと。
何か決意したようにゆっくり、噛みしめるように喋り始めた。

「あのね、あたしね、年の初めに相応しく、新しいことでも始めてみよっかなって思ってるの。」
「…うん」

「まだちょっと怖いけど、信じてみようかなって、思うんだ。」
「…」
「あたしを、あんたの彼女にしてください。」
「本気?」
「超本気」

首元まで真っ赤にしたあいつに、思わず口元がゆるゆると緩む。
迷わず伸ばした手で抱き寄せれば、自分より少し高い体温が素直に腕の中に収まった。

「まじ嬉しい……一年の始まりとしちゃ、最高だ…」
「ばか」

思わずと言った風に噛みついた唇。
今年初めてのキスを終えた後、

「酒くさっ!!!」

と二人して笑った。


おわり

















postscript
わりにするすると書いた子です。
書き終えてから見直してみて物凄い後悔に襲われております。
バンドマンがそのまんますぎて、ちょっとでも知ってる人が見たらきっとピンとくるんじゃなかろうかと。
取り敢えず書いておきながらこんな純情なやつじゃねーよwと一人突っ込み。






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