I can't live nor die without you.
どうして人は一人じゃ生きれないの。
目を開けると、カーテンの隙間から差し込んだ光が酷く眩しい。じり、と自分の肌が焦げているような気がして慌てて半身を起せば、同時に襲う眩暈にも似た酷い余韻。閉めるはずだったカーテンにしがみつくことで自分を保てば、陽はとうに登り切っていることが解った。
じくじくと痛む頭に手を当てて、昨日のことを思い出してみる。ライブの打ち上げでしこたま酒を飲んで…ぶっつぶれて…ここまではいつもと同じで。ただ少し違うのは、その打ち上げにあいつも来ていて。呼んだのは俺なのに、何故か他のバンドのヤツと楽しそうに会話なんかしているから…むしゃくしゃして一気飲みしたテキーラが良くなかったらしい。
「あー…最悪」
解ってる。解ってるんだ、あいつは俺のものじゃない。あいつがどこで、誰と、何をしようと、俺には何一つだって口を出す権利なんてない。それでも、好きで好きで好きで。いっそ四肢を縛って目を耳を塞いで、閉じ込めてしまえたらいいのに。
―どうして人は一人じゃ生きれないのかな。
初めて口にした明確な言葉に、あいつは肯定も否定も寄越さずに。たった一言。それを言ったあいつの瞳があんまりにも悲しそうで苦しそうで、結局それ以上何も言えなかった。逃げるように別れた帰り道、東京の雑踏の中ひどく鬱々とした気分になった。
「どうしてかな、」
どうしてだろうね、人が一人じゃ生きていけないのは。人という漢字がそうであるように、誰しもが寄りかかる誰かを探して。互いをきつく縛って、ようやく一息つける。そんな滑稽な生き物。そんな行動に理由をつけたくて、きっと人は愛だの恋だの声高に叫んでる。本当は、ただ、温もりが欲しいだけなのに。
それでも、欲しているその温もりが、あいつのそれであることを願うのは、わがままなことなんだろうか。
***
閉め忘れたカーテンから容赦なく差しこむ光が、部屋の温度をぐいぐいと上げる。ちりり、と皮膚が焦げる錯覚を起こして目を覚ました。起きぬけに思い出したのは、あいつの黒くて強い瞳が揺らぐ様。
―俺はお前が好きなの。
初めて明確に告げられた言葉に、何も言うことが出来なかった。薄々そうだろうなとは思っても、ずっと知らないふりをして逃げていたその現実。
永遠なんて存在しなくて、皆紛い物の永遠に縋っているだけ。始まりあるものにはいつか終わりが来る、それは至極当然のことで。寄りかかる誰かを見つけても、いつその人がいなくなるか解らない。ずっと、を誓った人があっさりと自分の前からいなくなる恐怖。そんな恐怖の再来に怯え続けて、気付けば誰も寄せ付けなくなっていた。言わば、これはあたしの最後の砦。
それなのに、あいつのあの真っ直ぐな瞳はやっと築きあげた最後の砦さえ奪う。
どうして人は一人じゃ生きれないのかな、一人なら誰を失うことも、何に裏切られることもないのに。たった一人膝を抱えて「入ってこないで」と願う反面、誰よりも強く奪われたいと望んでいる自分。もうあんな引き攣れるような痛みは味わいたくないのに。それでも今度こそは、と思う自分がどこかにいる。なんて虚しい。なんて浅はかな。
「どうして、だろう…」
ぽつりと呟いた声は明るい陽の光にゆっくりと溶けて消えた。
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