*想像で物を書いてますくれぐれも真に受けないでください
*バンドマンのモデルはいないこともないが、こんなひどい奴かどうかは知らない
*シリーズもののようです。









きついパルファムに内腑がざわめく





うげ、という声が聞こえてきそうなくらいに歪められた顔。一瞬後には澄まし顔に戻ったけど、それだけで解ってしまった。あ、こいつ俺のこと知ってる、と。そこそこ有名なレコード会社とメジャー契約もして、武道館でも何度かライブやってるんですよ、俺様のバンドってば。その界隈では結構な有名人ってわけ。そんな俺様見てあんな顔するなんて、この女何様だよ?

合コンなんてものに参加する気になったのは本当に気まぐれ。高校時代の友人の「どうしても!」という声に負ける形でここに来ることになった。正直女には不自由してないしさほど本命が欲しいとも思わない。丁度その日は仕事も早上がりだし、まあいっかと思って今ここに至る。

女4、男4で始まった合コン。お決まりの自己紹介タイムで職業はミュージシャンです、と言えば大多数の女は食いつく。今日も例に漏れず、あの女以外は皆一様に「なんてバンドなんですか?」「有名なんですねーすごーい」なんて言ってる。隣に座った女の香水が少しきつくて、鳩尾の辺りがざわりとなった。「いや、そんな大したものじゃないですよ」なんて謙遜するふりをして見せながらも、どうしても気になるのはあの女だ。合コンらしくきゃあきゃあと始まった会話の輪に入る努力なんて微塵も見せず、至極マイペースでシャンパンを楽しんでる。

なんとなくいい感じに盛り上がってきて、席替えとかやり始めた頃。ふとあの女が「ちょっとお手洗いに行ってくるね」と言い残して席を立つのが視界に入った。どうせそのまま帰るつもりだろう。
…なんだか癪に障るので、「ごめん、トイレ」と言って席を抜けだした。


こっそりと女子トイレからは死角になる位置に佇めば、あいつが出てくる姿。案の定席に戻ろうとする素振りなんて微塵も見せず、一目散に店の出口へと向かっている。そうはさせるか。

「あれ、お手洗いに行くんじゃなかったの?」

後ろから声をかけてやれば、面白いくらいに跳ねた肩。たっぷりと間を置いて振り返ったその顔からは、「なんでここにいんだようぜぇな」という空気がにじみ出てる。解りやすい女。

「…なんでこんなところにいるんですか?盛り上がってたじゃないですか、早く戻った方がいいですよー」

女の子他の人に盗られちゃいますよーなんて。繕ってみせてはいるものの、端々から早く帰りたいって雰囲気が見て取れる。

「いや、俺としてはあんたともっと喋ってみたいなと思ってね。だってあんた、俺のことホントに知ってるでしょ?」

入ってきた瞬間に嫌そうな顔したもんねえと厭味ったらしく言ってやれば、観念したとばかりに繕った顔が崩れて素の嫌そうな表情に戻る。

「まあ、お噂はかねがね聞いてますよ。」

「ふうん?どんな噂だか知らないけどさ、あんまり良さそうなもんじゃないよねえ。俺そんな風に見えるのかなーショックだなー。まあ、そんなん別にいいんだけど。それより取り敢えずさあ、河岸変えて飲み直さねえ?」

「なんであたしが…」

「単純。俺、あんたに興味があるから。奢るよ?レディーに財布は出させませーん。」

「いや「あ、行かないんだったらあいつらにあんたが帰ろうとしてるって言っちゃうからね。きっと非難轟々だよー?まだ始まって1時間経ってないし。」

このときの心底嫌そうな顔。写真に収めときゃよかったぜ、まったく。

「…奢りなら。」

「うし、決まりね。ほいじゃ行こうぜ。」

いつもの調子でさり気なく肩に回そうとした手は、容赦なく抓られて赤くなった。




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